カウンセリングエッセイ公開しました

noteで書いているカウンセリングについての記録、更新しましたので、お知らせします。こちらにも全文載せます。
小林エリコ 2022.06.19
誰でも

女という被害を乗り越えるためのカウンセリング-14

カウンセリングを受ける前、カウンセラーが何をしてくれる人なのか知らなかったし、受けることで自分に良い変化が起こるのかも分からなかった。そもそも、話すだけで、何十年間も続いてきた絶望的な状況に変化を起こすことができるのだろうか。

ただ、カウンセリングを受け始めてから、わかったことがひとつある。それは「とても公平なものの見方」だ。

私は兄に性暴力を受け、親も一度兄を咎めただけで、おしまいにしてしまった。その後も学校でのいじめや中学生の時に塾講師から受けたセクハラなどの影響で、自分に対する尊厳や誇りは根こそぎ奪い去られた。そのせいで、私は自分のことを生きる価値のないゴミクズだと信じているし、自分が死んでも悲しむ人などいないという信念を持っている。でも、本当はそうではない。全ての暴力に関して、悪いのは加害者であり、被害者には何の罪もない。私はそれを理解しているけれど、自分に関しては適用することができず、彼氏からDVを受けても耐え続け、職場で理不尽な扱いを受けても我慢し続けてきた。

私がカウンセリングで自分の身に起こったことを話すと、カウンセラーは「それはひどい」と言って怒ってくれる。カウンセラーのその姿を見ることで「ああ、これは怒っていいことなのだ」と分かる。逆に絵のことを話したときは「絵について専門的なことは分からない」とはっきり答える。そして、「分からないけれど、絵を売るときにつける値段は、その活動が続けられるだけの値段はつけた方がいい」と真っ当なことを言ってくれる。

私は過去に開いた絵の展示でドローイングを一枚五十円で売ったことがある。それは自分の絵に対する自信のなさからきているのだが、絵を続けたいなら、それだけの金額をつけなければならないのはその通りだ。

最近は家族のこと以外にもいろんなことを話すようになった。彼氏と暮らしと生活費の話、現在の職場における賃金や待遇、人から言われて傷ついた言葉、世の中に対して考えていること。私の言葉をカウンセラーは受け取ると、それが正しいか否かを返してくれる。それはカウンセラーの個人的な価値観ではなく、ごく常識的な公平感覚だ。

「ものを盗むのは悪い」

「暴力はいけない」

「あまりにも安い賃金で人を働かせてはいけない」

そんな当たり前のことを聞いて何になる、と思う人はよほど幸せな世界で生きているのだろう。私にとって世界は不条理な暴力と理不尽な仕打ちで満ち溢れ、何が正しいのか分からなくなるくらい、ルールのない無法地帯なのだ。何しろ、私に性暴力を行った兄は、普通の父親として生活しており、過去の罪は償っていない。加害したという意識すら持っておらず「そんなに悪いことしたかな」と平然と言いのける兄の前で、被害者の自分は悪くないという常識はガラガラと崩れ落ちているのだ。

今受けているカウンセリングは良いところだが、もちろん、ひどいカウンセリングを受けたこともある。都内の有名な大きいクリニックに通院していた時、病院にカウンセリングルームが併設されていて、保険が使えるので三割負担で受けられるからと勧められたのだ。

予約を取り、小さな個室に入り、目の前にいる若い女性のカウンセラーに涙を流しながら、子供の頃に受けた性暴力、いじめ、父のDV、母の無関心などについて話したが、彼女は表情をひとつも変えなかった。しばらく沈黙が流れた後、彼女は机の時計に目をやり、こう口を開いた。

「カウンセリング終了まで、あと30分あるので、そこに座っててください」

私はびっくりしたが、何も言えなかった。そして、涙を拭きながら、申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいだった。そして、同時に裏切られた気がした。やっぱり、話すんじゃなかった。誰も私の話なんて聞きたくないんだ。次回の予約の紙をカウンセラーに渡されたが、部屋を出てすぐにその紙をゴミ箱に捨てた。

そのクリニックではいろいろな取り組みをしていて、肉親から性暴力を受けた人の自助グループがクローズで行われており、参加したのだが、あまりにも惨たらしい話を聞いて、具合が悪くなり、2度と参加しなかった。クリニック以外にもアダルトチルドレンの自助グループや精神疾患当事者のミーティングに参加していたが、自分が癒されたり、回復する感覚を掴めないでいた。また、当事者の自助グループは未発達なものが多く、チェアマンもいないミーティングでは、風俗で働いていた経験を話した女性に対して、男性が「僕もよく風俗に行くんですけど、どうしたら風俗嬢に気に入ってもらえますか?」と、堂々と聞いていた。

会話をすることにいいイメージが持てないでいたが、今のカウンセリングは受け続けるつもりだ。

過去のものはこちらから読めます

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昨日、トップガンマーヴェリックを見てきました。臨場感が物凄かったけど、戦争は嫌だし、こんなカッコいい戦闘が存在するかよ、つーか、戦争を美化して欲しくない…とモヤモヤしつつ、トム・クルーズの役、徳利(好きなラッパー)がやったら絶対似合うと想像していた。

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小林エリコ個展(8月10日〜14日まで)*12日はお休み

会期:2022年8月10日〜14日まで(12日のみお休み)計4日

時間:12時から19時まで(10日のみ14時から)

作者在廊日:10日(水)13日(土)14日(日)

会場:ギャラリーharu

杉並区高円寺南3-42-14 フラワーコーポ103

(JR中央線・総武線高円寺駅下車、徒歩8分 ※中央線は土日は止まりません)

(メトロ丸ノ内線 新高円寺駅下車 徒歩12分)

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新しい絵もこの間、制作しました!額装して販売します。値段は1万円から2万円の間くらいです。大きさはB2です。

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『生きながら十代に葬られ』(イースト・プレス2019)

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『家族、捨ててもいいですか?』(大和書房2020)

『私がフェミニズムを知らなかった頃』(晶文社2021)

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